ベイズ統計モデリングの有用性を示す認知心理学研究の紹介 : 個人間・試行間のばらつきを理解する

タイトル: ベイズ統計モデリングの有用性を示す認知心理学研究の紹介 : 個人間・試行間のばらつきを理解する 著者: 武藤, 拓之 抄録: 観察可能な行動を手がかりにしてその背後にある情報処理の仕組みをモデル化し, 人の心を理解しようと試みるのが認知心理学の基本的なスタンスである. 認知心理学のこのような考え方は, 確率モデルでデータの生成過程を表現し, その確率モデルをデータに当てはめることによって現象の理解と予測を促す統計モデリングの手法と非常に相性が良い. 特に近年, Stan (Stan Development Team, 2020) やJAGS (Plummer, 2020) といったベイズ推定を実行するための確率的プログラミング言語が登場し, 従来よりも容易かつ柔軟に統計モデリングを実施できる環境が整ってきたことは認知心理学にとっても追い風である. このような状況を踏まえ, 本稿ではベイズ統計モデリングの強みを生かした最近の認知心理学研究を紹介する. 行為主体がベイズの定理に基づいて信念を更新するとみなす意思決定の認知モデル(e.g., 中村, 2009; 繁桝, 1995) については本稿では扱わない.